諸外国では、受刑者の芸術活動が盛んに行われています。それは、教育や社会復帰につながるものとされたり、あるいは、そうした活動や作品が広く公開されることで、この社会における犯罪や刑事司法をめぐる問題を問い直す場を生み出すなど、さまざまな捉え方があります。
日本においても、矯正管区が主催する文芸作品コンクールや、少年院の映像表現コンクール、死刑囚の表現展、刑務所内のクラブ活動などの文化活動が存在します。しかし、矯正施設(特に刑務所)は、応報的な刑罰のためにあるという社会認識のためか、ある種の余暇活動とも思われるこうした活動はこれまでなかなか注目されてきませんでした。
そこで、本研究会シリーズでは、改めてこの「刑務所と芸術」というテーマについてさまざまな専門家や関係者、当事者、そして関心を持ってくれた参加者とともに考えたいと思います。
第1回 「矯正施設における芸術活動を阻む壁は何か」
日時:2021年9月12日(日)14:00〜16:00
【話題提供者】:
風間勇助(東京大学大学院博士課程2年/龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員)
【コメンテーター】:(五十音順)
・石塚伸一さん(弁護士、龍谷大学法学部教授)
・黒原智宏さん(弁護士、色鉛筆訴訟の代理人)
・中島学さん(札幌矯正管区長)
・中村美帆さん(静岡文化芸術大学准教授)
拘置所内で色鉛筆の使用ができなくなった33歳の死刑囚が、「色鉛筆を使えるようにして欲しい」と、拘置所から国に訴えを起こしました。文化芸術基本法の基本理念では、「文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利」であることから、あらゆる人々が文化芸術にアクセスできるよう、国はその環境整備を図ることが明記されています。
このあらゆる人々には矯正施設の被収容者も含まれうるのでしょうか。含まれうるとして、こうした施設において芸術活動をしていくには、どのような法的な壁、あるいは施設管理・運営上の壁があるのでしょうか。どのようにその壁を越えていくことができるでしょうか。こうした施設での芸術活動はどのような意味合いを持つでしょうか。
本研究会のキックオフとなる第1回では、こうした問題をめぐって、文化政策や刑事政策の専門家、矯正施設の現場の実務者、弁護士のみなさんと議論を行い、日本における刑務所と芸術をめぐる問題をブレインストーミングする会にしたいと思います。
第2回 テーマ:「実践:刑務所の文芸作品コンクールとは」
日時:2021年9月26日(日)14:00〜16:00
【コメンテーター】:(五十音順)
・荒木瑞穂さん(歌人、金石研究家)
・五十嵐弘志さん(NPO法人マザーハウス代表)
・上田假奈代さん(詩人、NPO法人「こえとことばとこころの部屋」代表)
・小山田徹さん(美術家、京都市立芸術大学教授)
・高橋亘さん(NPO法人「こえとことばとこころの部屋」)
あまり知られていませんが、少年院や刑務所の被収容者を対象にした文芸作品コンクールが行われています。詩や短歌、絵画、読書感想文、文芸誌などが公募され、外部の専門家による審査を経て入賞作品などが決まります。その成果は、矯正展などで公開されることもありますが、施設によっては公開していないこともあります。そこで、日本の矯正施設で長く続けられているこの文芸作品コンクールとはどのようなものなのかについて、審査員などの立場から関わる登壇者を中心として聞いてみたいと思います。
第3回 テーマ:「社会的意義:アートプロジェクトとしての“プリズン・アート”?」
日時:2021年10月9日(土)14:00〜16:00
【ゲスト】:
・ミヤザキケンスケさん(画家)
・熊倉純子さん(東京藝術大学教授)
2020年9月から2021年4月まで、アメリカのMoMA PS1という美術館において、展覧会「Marking Time: Art in the Age of Mass Incarceration(時を刻むということ:大量投獄時代におけるアート)」が開催されました。同展のキュレーターであるニコル・R・フリートウッドは、こうした“プリズン・アート”は、アウトサイダー・アートとは異なるものとして、「Carceral Aesthetics(監獄の感性学)」という独自の概念を提唱しています。これは、自由のない状況における時間や空間、限られた物質を創造的に利用して芸術を制作することを指し、刑罰制度と社会との関係性を可視化するものとして捉えられています。
つまり、作品そのものだけでなく、その作品が作られるプロセスや、その作品がどのような人々あるいは社会との関係性のうえにあるのかといったことに着目する必要があります。エクアドルの女性刑務所において女性受刑者とともに壁画を制作したミヤザキケンスケさんにお話を伺い、刑務所におけるアートプロジェクトが関わる人々にどのような影響をもたらしたのか議論したいと思います。